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歩く。
走る。
止まる。
左手のスパッドを上段から振り下ろす。
右手の実剣で素早く連続で突きを繰り出す。
そんな動作を繰り返しながら、泰晴は軽い、と心の中で呟いた。動きが、コレまで扱ってきたどのMHよりも軽く感じられた。エトラムル・ファティマとはまるで違う――積んでいるファティマは、泰晴がその才能を見出した伊作が最高傑作と言ってしまえるほどのスペックを誇っているので、エトラムルなど比較にもならないが――その動きは、生身に近いものがあり、三郎と“白雪”よりも強い一体感を感じた。
そう口にすれば、上のファティマシェルの中で“艶夜”を動かす事に腐心している兵助は、きっと喜びや誇らしさを隠しもしないで自分達はマスターの為だけに存在するのだと事も無げに言い放ってくるのだろう。それが少し、重いと思う。
泰晴は騎士だ。それも、超帝國の純血の。前世紀の遺物であり、本来この世界にはなかったはずのもの。己を育む母胎すらなく、生まれてくることさえ、受精卵の時点で諦めていたことさえあった。生まれても親もおらず、養い親にとってはただの研究対象で、子など望める存在ではなく――仮に受精できたとしても、超帝國の騎士の力に受精卵が絶えられず、人の姿をとるまで育つ事が出来ないのだ――その特殊な生い立ちからまともに仕える事の出来る国もない。もっとも、仕える国のない事は、ひとつの所に身を置いて気に入らない人間に頭を下げる事を心底嫌う泰晴にとって、割合どうでもいいことでもあるのだが。
そんな訳で、泰晴はないないづくし――というには、色々なものを持ってはいるが――の人生に慣れていた。むしろ何のしがらみも持たない身軽さと言うものを、好んですらいた。そこに、降って湧いたように出てきた、『自分の為にある』と主張する存在。ファティマもMHも泰晴の行く道を阻害せず、むしろその助けになるような代物ではあるものの、そこに他人の意志が入ってくると、動きにくくなる。
精神的に重い。
けれども泰晴は小さく息を吐いただけで、その思いを呑み込んだ。
「腕と足の動き、後コンマ05秒早くできるか?」
『可能です。この子のスペックなら、あとコンマ2秒加速できますが』
「騎体への負担は?」
『3%増です』
「……微妙な数字だな」
実戦に出て、長期戦になってしまえば、どこでその数字が悪影響を出すか解らない。
「もう少しダメージ減らせるか?」
『騎体制御次第では可能かと』
「パターン出せ」
『はい』
一秒と経たず、コンソールにかかる負担を散らす行動パターンがいくつか出てくる。その動きを一通り頭の中に叩き込んで、画面を切り替えた。そして、その通りにMHを動かし、実際にかかった負担のパーセンテージを出した。確かに、かかる負担は軽減している。しかし、その分今まで負担のかかっていなかった部分に、そのダメージは移行していた。
「……これ以上は騎体自体をどうにかしないと駄目か」
『後ほど食満博士にデータを転送しておきます』
「ああ」
今までに乗ってきたMHと比べると、これ以上ないほどに良い騎体だとはいえ、専用機としては、まだまだ完成しているとは言いがたい。故に“艶夜”は、実際に乗って泰晴の癖を覚えこませなければならず、細々としたチューニングを必要としていた。
思っていたよりも抵抗されずに送り出された訳である。
実ににこやかに泰晴と兵助の乗ったドーリーを見送った科学者二人を思い出し、僅かに口元を歪めた。いつもならば小さい子供が駄々を捏ねるように泰晴が旅立つのを嫌がるというのに、またすぐに会えると知っていたから、あの二人はいつものようにぐずる事もなかったらしい。だとしたら、大変なのは完全にチューニングした後だ。
泰晴はその時の労力を思って、深々と溜息をついた。彼らがそうなったのは、伊作がファティマを作る為の設計図を書き出した途端、泰晴が彼らの自宅兼ラボに寄り付かなくなり――何度も言うが泰晴はファティマ嫌いだ――挙句20年近く音信不通になった所為なので、ある意味自業自得なのだが。そんな事で疲れたくはないが、チューニングは必要だ。面倒を嫌う泰晴がそう思うくらいには、“艶夜”は魅力的な騎体だった。
「チューニングに出す前に、少なくとも一度はMH戦を経験しときたいが……」
『遭遇できそうな場所を割り出しましょうか?』
「そうしてくれ」
それと、一度は街に向かった方がいいだろう。それと、このカステポーのどこかにいるブラックドラゴンの出現ポイントにも。チューニングをしに、留三郎や伊作の元へと戻るのはそれからだ。
あまり遅くなればそれだけ不機嫌になるだろう、若干親離れ(?)できていないカップルを思って、泰晴はもう一度溜息を吐き出した。
FSSパロ第四弾。
前回の続き。甘いの書いてみたいとか言いつつ、まだまだドライな関係の二人です。出会って数日だから仕方ない。
この後何度か実戦をこなして、ブラックドラゴンに会いに行って、また実戦して強いのにぶち当たって、興奮した泰晴が町に行って性欲として熱の発散をしようとして嫉妬した兵助が自ら喰われに行くと。……あれ、なんだか【艶にて候ふ】本編の二人と同じよーな行動ですネ。
でもまぁ、キャラ的に同じ二人なんだから仕方ないと言いますか、なんと言いますか。こいつらは、本当に最初は体の関係ありきで発展していくんですね。書いてる私自身がビックリとかどうよ。
ちなみに兵助は女体化してる上にファティマになってるわけですが、あの原作のファティマのように針金みたいにがりがりと言う訳では有りません。どちらかというと着やせしてるグラマー体型。抱きしめたらふわふわしてるんですよ、柔らかいのですよ。
おにゃのこの場合は体型を考えるのが楽しいですね☆(どこの親父だ)