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「おはよう、“艶夜”」

 柔らかく、小さな子供に語りかけるような優しく穏やかな母の如き声で、兵助はファティマシェルに深々と腰掛けながら相棒であり、主人の大切な騎体に語りかけた。実質、完成して間もないこの騎体は幼い子供のようなものだった。騎体に、人格というものを認めるのであれば。事実、MHには意志が存在している。只人では理解しきれないその認識は、ファティマや騎士、そしてマイト達にとって、MHが多少の意志を持つ事は至極当然のように知られ、認められている事だ。
 泰晴の為だけに作られた“艶夜”は、実戦に出た事はないが、白雪の戦闘データをもとにある程度の調整が既になされている。そのために、赤子と言うには少しばかりその精神と呼ぶべきものは成長していたが、まだまだ兵助にとっては幼い子供だった。

【ま、ま】

 音、と称することの出来ない音が、ヘッドクリスタルを通して兵助の耳に届く。その声は縋るようであり、困惑しているようだった。おそらくはその両方なのであろう。今まで“艶夜”はファティマシェル以外に人――兵助はファティマではあるが――を乗せた事はない。“艶夜”は戸惑っているのだ。コクピットに乗り込んできた、騎士の存在に。

「怖がらないで、“艶夜”。今コクピットに座っているのは、私たちがずっと待っていたマスターだ」
【ぱ、パ】

 短く流れた電子パルスに、兵助の頬がふわりと染まる。幼いMHを宥め、徹底して騎体の状態を捕捉し騎士を助ける為の存在たるファティマを母とするならば、確かにその力で持ってMHを動かし、戦場を駆ける騎士は父だろう。けれども、ファティマとその騎士という認識と共に、遠い場所から泰晴を見続け、彼の側に行きたいと思い続けていた兵助にとって、その言葉は少しばかり刺激が強かった。
 思わずそのまま硬直してしまった兵助を、“艶夜”は訝しむ。

【マ、ま?】
「……え、あ、あぁ…そう、下のコクピットにいるのが、パパだ。初めましての挨拶をしようか」

 どうしたの、と言わんばかりの声に、兵助はぎこちなく頷いて見せて、頬を赤く染めたまま幼いMHに騎士への挨拶を促す。そしてコンマ数秒の内に下のコクピットでコンソールがカタカタと揺れる音が響き、「コントロールが来たか。初めまして、“艶夜”」と小さく声が返った。それに、“艶夜”が若干浮き立つような電子パルスを放った。騎体に人格を認め、言葉を返した主に喜んでいるのだ。兵助の表情も、柔らかく和む。
 そして、騎体のチェックを始めた泰晴の望むものを、人のように表現するのならばうきうきしている“艶夜”をあやしながらもパネルへと表示させていく。しばらくして、コクピット内で小さく溜息をつく音がした。それにどうしたのだろうと小首を傾げ、コクピットとの通信を繋げる。

「どうかなさいましたか、マスター」
『お前、こいつ動かせるか?』

 こつんと、音がする。コクピット内を軽く小突かれたのだろう“艶夜”は、初めての事に少しばかり驚いてから楽しい、とでもいうような電子の波を兵助に伝えた。

「問題ありません。三郎と“白雪”ほどではありませんが、この子と私は対の存在――マスターの為だけにあるもの。どんなMHよりも、マスターの望み通りに動く事が出来ると自負しております」

 “艶夜”の反応に微笑ましくなりながらも、確かな自信を持って主の言葉にそう返す。自信に彩られた母役の笑みに同意する“艶夜”は、再度コンソールを小刻みに揺らした。

『ならいい。調整が終わり次第、カステポーで実戦だ。ドーリーの用意も出来てるんだろう?』
「はい。“白雪”同様、専用のドーリーがございます」
『……それも新作か』
「はい。地上走行型のモータードーリーです。基本的な構造は“白雪”と変わりませんが、マスターがより快適に過ごせるよう、現時点で可能な改善は全て施してあります」

 三郎からの報告が入る度に喜々として図面を広げ、あーでもないこーでもないと額をつき合わせて泰晴専用のドーリーをどう改善しようかと、昼夜なく議論してた博士二人の姿をデータの中からひっぱりだし、微笑ましいような羨ましいような思いを抱いていた――何せ兵助はファティマ。最も泰晴の役に立てるのは戦場に出た時だ――自分もついでに思い出して、兵助はこれからこの人の役に立つのだから、と嫉妬に胸の中で波打つ感情を宥めた。
 まだ完全に受け入れられたとは思わないが、顔を合わせてすぐの相手を信じられる訳もない。それはこれから確実に、誠実に積み上げていけばよく、そうしなければならない類のものだ。自分たちの関係はこれから、なのだ。

『水と食料は?』
「マスターがこの工房に到着する前日に、肉、野菜、果物、調味料や香草を各種フリーザーに詰め込めるだけ用意してあります。非常食やレーション、パンも同様に。水は“白雪”に積んでいた倍の量を貯蔵しています」

 それを手配したのも詰め込んだのも、兵助と、好意から手伝ってくれた勘右衛門であったが。ちなみにマイト二人はというと、格納庫の充実と医療器具や薬などの補充の方に夢中になっていた。ファティマや騎士では使えないような専門的なものが間違って入っている時があるので――マイト二人は彼らの視点で必要なものを入れてしまうため――勘右衛門と二人で目を皿のようにして専門家にしか使用できないものを探し、放り出す羽目になったが。それもまた積まれ直しているような気がする。昨日取り出した時点で、全く諦めていなかったようなので。
 そんな事を思い出していると、コクピットにいる泰晴は引っかかる言葉があったのか、怪訝そうな声を出した。

『倍……?』
「マスターが湯船に浸かりたいと仰っていたと聞いた食満博士が、喜々としてドーリーに浴槽を積んでいたのでその為かと」
『なるほど』

 ちなみにその浴室は、ドーリーの中でもそれなりに予算が割かれていた部分である。装飾はごくシンプルでありながらも、ひたすらにリラクゼーションを目的とした機能が充実していた。他にも、ドーリーの振動の伝導率の軽減だとか、寝室や設置する家具の材質だとか。もしかしたらMHを作るとき以上に楽しそうだったかもしれない。いや、楽しかったのだろう。両方の画像データを比較すると、三割増で笑顔が多い。

『なら騎体が十全なら出発は明日。微調整は移動と同時進行だ』

 泰晴の中の疑問が解消されたのか、すっきりとしたような声が出立の日にちを告げる。今日、両博士の工房兼住居に着いたばかりだというのに、いやに早い出発だ。これは泰晴を慕っている二人がほぼ100%の確率で食い下がって引き止めてくるだろうと、予測が出来た。だからこそ、ずるずると居座らぬうちにこの工房を出ようとしているのだろうけれど。
 放浪している時間が多く、滅多に顔を出さない騎士の友人と少しでも長い時間を過ごそうと思っている博士たちの気持ちは、兵助にもよく理解できた。けれども、満面の笑みと共に主へと返す言葉はたった一つだ。

「Yes,Master」

 だって、兵助はこれからずっと、泰晴の側にいられるのだから。




 その2の兵助視点。MH“艶夜”込み。
 MHが意思を持つような表現は素敵原作様でもありますが、ここまであからさまでもなかったような。でもいいんです、二次創作二次創作。原作者様曰くSFじゃなくて御伽噺。きっとSFの内約は少し不思議です。
 しかしながら、この話のは組二人は艶主が好きすぎますね。才能を見出して大概の出資をしているのは艶主なんで、仕方ないっちゃ仕方ないですが。そんでもって書いてる私は楽しいです。
 まだまだドライな二人なんで、甘い二人も書いてみたい、なー。
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