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「うーん・・・・・・やっぱり多勢に無勢じゃ無理だったかー」

 周囲を炎で巻かれながらも、阿修羅はそうぽつりとこぼして苦笑を浮かべた。最初から、敗北が決定していた戦だった。最強と謳われた忍者隊を擁していてさえも、そんなことは無意味だというような。だから彼らの主は最初、己の身と引き換えに進化や忍者隊の面々、そして領民たちの命や生活の保証を得ようとしたのだ。けれども、それは主以外の人間が納得しなかった。
 だから、影武者を立て、周りを忍者隊の面々で固めて、彼らの主を隠した。これらの行動は、すべて阿修羅が独断で行なったこと。それでも、年若い老中をはじめとした面々は、勝手をした阿修羅に向かってただただ深々と頭を下げた。その老中たちの幾人かも今は城の外へと連れ出され、ここにはいない。残りの幾人かは、彼らが居なくなったことを隠すべく燃え落ちる城と命運をともにすると、年老いた顔に穏やかな笑みを浮かべていた。その彼らに、阿修羅も逃げるようにと言われたのだが、彼は首を横に振った。それだけはできないのだ。阿修羅だけは、逃げられない。この国が襲われたのは、忍者隊が強くなりすぎたというのが理由の一つにある。その象徴たる阿修羅の死が確認できなければ、彼らは草の根を分けてでも探し出そうとするだろう。それは、逃がし隠した彼らの主の安否に関わる。だからこそ、阿修羅はここで終わらなければならなかった。

「少し心配だけど、皆十分に育ったし、悠一郎もついてるし、大丈夫、だよね」

 忍者隊の面々を思い浮かべながら、そっと、じくじくと痛みを訴える傷に触れる。限界まで戦っていたせいで、もうすでに体はボロボロだ。即死しないまでも、致命傷を負ってしまっている。炎とともに、ゆるゆると、阿修羅を死へと連れて行く傷だ。

「あ~あ、終わり、かぁ・・・・・・」

 ポツリと、つぶやく。なぜだか、視界が歪んだ。なぜだか、じゃ、ない。阿修羅はその感情を、確かに知っていた。口にしてしまえば、恥も外聞もなく何もかもをぶちまけてしまいたくなる、そんな感情を。抑えようとしても、自然と出てしまうような感情を。

「ひと、り・・・・・・」

 震える喉から出た言葉にハッと目を見開いて、きつく唇を引き結ぶ。それから先は自覚して出してはいけない言葉だ。その言葉を出してしまえば、阿修羅は阿修羅として逝けなくなってしまう。
 涙がこぼれ出てしまわないように、ぐっと目をつむった。
 そうして、とても長い時間だったのか、ほんの一瞬だったのか、突然知った気配の持ち主に背後からきつく抱き込まれて、驚愕で目を見開くと共に呼吸を止めた。

「言えよ」

 聞きなれた男の声だ。

「最後なんだ、言っちまえ」

 ここにいるはずのない男の声だ。

「阿修羅」

 一人ではないという安心感と、なぜここにいるのかという疑問がごちゃ混ぜになって視界がぐらぐらした。

「ゆ、いちろ・・・・・・なんで」
「独りが嫌いなお前が、泣いてるんじゃないかと思ってな」

 ふざけたように、笑いを含んだ言葉で返される。そうじゃなくて、と声を荒げると、くしゃりと頭を撫でられた。

「泣いてたんだろ」
「泣いてないもん・・・・・・」
「なら泣けばいい。泣いて、独りで逝くのは嫌だって言えばいい。最後なんだ。俺以外誰もいない。『詠野阿修羅』が崩れても、何の問題もない」

 優しく、諭すような声音に、ボロボロと涙と一緒に阿修羅を『詠野阿修羅』として留めていたものが剥がれ落ちていく。虚勢という名の仮面が全て剥がれ落ちたとき、阿修羅は大きく息を吸っていた。

「嫌だ! 独りは嫌だ! 独りで逝きたくない! 死にたくない! 怖い、怖いよう、ゆういちろう・・・・・・!」

 恐怖を前にして、ただ幼子のように泣き叫ぶ阿修羅に、悠一郎は一つ首肯してより強く阿修羅を抱きしめた。阿修羅はそれだけが確かなものだというかのように、自分を抱きしめる腕に爪を立てる。

「あぁ・・・・・・俺を連れていけ、阿修羅」
「なに、いって・・・・・・」
「独りは嫌なんだろう?」
「やだ・・・・・・」
「だから、俺が一緒に逝ってやるよ」
「若様、は・・・・・・」
「大丈夫だ。伊作たちが守ってる。あいつらは俺がいなくても立派にやっていけるよ。大丈夫。それに、お前が言ったんじゃねぇか。ずっと一緒いにいろって」

 確かに、阿修羅は雄一郎に向かってそういった。阿修羅が組頭として立つときに、交換条件のように、脅迫するように。でも、それは、こんな意味ではなかったはずだ。

「ちが、そんな、意味じゃ」
「つべこべ言うな。今更手放すなんて、言うな。・・・・・・伊作たちは、連れては逝けないんだろう?」
「・・・・・・うん」

 そうだ。伊作や、三郎。雷蔵も、留三郎も、皆々生きていて欲しかった。愛しているからこそ、連れては逝けない。

「でも独りは嫌なんだ」
「う、ん・・・・・・」
「なら、俺だけで我慢しとけ」
「・・・・・・ゆーいちろーは馬鹿だ」
「おう」
「馬鹿だ・・・・・・」

 がらがらと、木が燃え落ちていく音が響く。阿修羅たちがいる空間にも煙が充満し始めていて、出血も手伝って、阿修羅の意識はクラクラと揺れていた。

「阿修羅」
「・・・・・・な、に?」
「最期だから、な。許してくれよ」
「なに、を?」


 



――あいしてる。


 


 密やかにこぼされた告白と、指先にわずかに触れた唇に、知ってるよ、と同じくらいの密やかさで応えて、力の入らなくなった体をあずけた。いつも眠るときに、そうしていたように。沈んでいく意識の中で、おやすみ、と優しい声が囁いた。


 更新が止まっていて色々とすいません。でもいつまで更新しないんだとか言われてがっつりやる気が削がれてますがふん。
 仕事も新しい職場になって覚えることも多くて忙しいってのに、もー・・・・・・。一応管理人にもリアルっつーもんがあるんですよ、そこんとこ分かってくれてます? 大多数の人には分かってもらっていると信じていますが、上記のような人がいるのも本当で、もうほんとぐちっぽくてごめんなさい。


 で、話は変わりますが、曼珠沙華の最終回的なネタを書いてみました。阿修羅は幸せーに暮らしててもいいんだけど、これが曼珠沙華らしいかな、とも思います。主に阿修羅の不幸っぷりが。んでもって、最後の最後はやっぱり悠一郎が一緒にいるんだと思ってます。
 あれですね、昔りぼんで読んだ「こどもの○もちゃ」の劇中劇の「水の○」に出てきたセリフが衝撃的だったんですよ。「愛してるから二人は連れていく。でもあんたは愛してるから連れていかない」みたいなのが。
 ちなみにこの後は悠一郎が阿修羅の遺体を首を取られないように持ち出して、どっかに埋めて、自分はその墓を守るようにくずおれておしまい。魅羅や弥次郎あたりがその遺体を発見して阿修羅の墓を守るような位置に埋めて、彼らはその墓守として暮らします。若君は福富屋の伝で商人になった忍者隊の面々に養われて文化人として生きていきます。忍者隊の面々は先述のように商人として商売。伊作は忍術学園の医務室あたりで働いてます。それが阿修羅が願ったことだから。その他はあまり考えてませんが、まぁ、この設定だとそんな感じです。
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曼珠沙華大好きです!
曼珠沙華が大好きすぎてどうしようっ、って思わず口元隠しながら読破させていただきました。
以前来たときは、「艶にて候ふ」にばかり目がいって、曼珠沙華のリンクを発見できなかったのが大後悔です。
本当に、楽しかったです!
保健室でばったり雑渡さんと会ったりして、脱兎の如く逃げ出す雑渡さんを想像するだけでお腹いっぱいですv

曼珠沙華の終わりも、ああ有りだなあと自然と思える終わり方で好きです。
最期があえて伊作ではなく「ゆーいちろー」な辺りが特に!!

過去の小ネタでありました、ツナ成り変わりの夜叉王の設定には爆笑させて頂きました。
ああ、親馬鹿大爆発素晴らしいですね!でも懐かれないwww

ではでは、長くなりましたが最後に。
お体は本当にご自愛ください。
私も仕事関係で身体壊したことあるので、、、
妄想はご飯、小説は気分転換ぐらいな気持ちで無理してするものではありませんので、更新については深く受け止めなくて大丈夫です!

もとより小説の数が素晴らしいので、読み返して悦にはいっておりますv

ではでは本当に長くなりましたが、これにて。
つなし URL 2012/06/02(Sat)20:28:19 編集
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