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 風が気持ち良い。そう心の中でつぶやいて、レンは目を細めた。
 日差しは強いが、影の中にいれば十分に涼しく、執務室の中に吹き込んでくる風も心地よい。建物が石造りであることも、涼をとれる理由になっているだろう。その分、寒さに弱いレンにとって冬は厳しいのだけれども。

「人馬宮様、こちらの案件を急ぎでお願いします」

 ずいっと、目前に書類が差し出される。反射的にその書類を受け取り、内容に目を走らせると、深々とため息をついてこめかみを揉んだ。聖闘士候補生や雑兵の一部がロドリオ村で問題を起こしたのでどうにかしてほしいという、村人からの陳情書だ。聖闘士は常人とは違う力を持っているのだから慎重に行動しろと常々言い聞かせているはずだというのに、何処にでも馬鹿はいるものだ。
 心底嫌そうな顔――面に隠れてはいるが雰囲気でわかる――をして深々とため息をつくレンに、彼女の様子を見守っていた神官は苦笑する。彼女の気持ちは嫌というほど理解できたからだ。

「今月に入って何件目だ」
「そうですね、そろそろ二桁に届こうかと……」
「馬鹿どもが……」

 悪態をつくレンに、神官は口が悪うございます、と控えめに嗜める。けれども、その声には非難の響きは無く、どこか仕方がないとでも言うような温かな感情だけが宿っていた。十八にもなる娘の言葉遣いではないが、レンは幼い頃から荒っぽい口調をしていたし、周囲をほとんど男に囲まれていては女性らしい言葉遣いが身につくはずも無い。彼女の口調に眉間に皺を寄せる者も少数いるが、公の場に出れば貴族の姫に勝るとも劣らない言葉遣いや振る舞いを完璧にこなすために、表立ってその事に意見する者もいなかった。大半の人間は時と場合を選んでくれさえすれば、それで良いというおおらかな気性のものが多い。そうなるように教皇達が手を回していたりするのだが。

「まぁ、理屈は解るがな……」

 レンはため息をつきながらも、書類を指先ではじく。その指先が疎ましげに見えるのは見間違いではないだろうと、神官は苦笑を浮かべる。

「男とは女性を求める生き物ですから」
「それにしても、聖闘士候補生たる者が理性の足りない猿というのは笑えん」

 血気盛んなのはどうしようもないとしても、処女神に仕える者としてはどうか。
 男の生理と言うものを一応は理解しているとはいえ、そのあたりには物申したいレンである。それには同意見なのか、神官もただこくりと頷いた。

「どうなさいますか?」
「決まってるだろう。仕置き決定だ」

 そもそも、今まで多少なりとも見逃してきたのが間違いだった、とレンは口をへの字に曲げる。理解しきれない女の身で男の生理云々に口を出すのも、と神官に回していたのだが、甘かった。今のところ大事に至ってはいないが、これ以上放置してしまえば大事になってしまうのは想像に難くない。

「後でリバルエイドとヘリオトロープを呼んでおけ」
「宝瓶宮様と、巨蟹宮様、ですか……」

 それはまたなんとも的確な飴と鞭。
 レンの人選に、神官は顔を引きつらせる。巨蟹宮の主は一言で言えばレン至上主義。彼女を煩わせたとなれば、相手が誰だとしても甘い顔などまったく見せはしないだろう。そして宝瓶宮の主は、遊び人として有名ではあるが、それも場所と相手をよく吟味してのことで、特に咎めるような事をした事はなかった。このことを考えると、レンが彼らに何を求めているかは明白だ。

「何か問題でもあるか?」
「いえ、的確な判断だと思います。承りました、後ほど宝瓶宮様と巨蟹宮様をお呼びしておきます」
「頼んだ」
「御意」

 頭を下げて執務室を出て行く神官に鷹揚に頷いて、レンは仮面を外しいささか乱暴にデスクの上へと放り出した。室内には誰もいないからこその行動だ。
 ぐしゃぐしゃと、半ば八つ当たり気味に前髪をかき乱していると、くすりと小さな笑い声が響いた。顔を上げると、長い浅葱の髪を風に流した絶世の、と冠がつくほどの美貌を持った恋人の姿。柔らかく和んだ花浅葱の瞳に、一時的に苛立ちを空の彼方に放り投げることにしてレンはつられるように笑みを浮かべた。

「フィー」
「随分苛立っているみたいだけど、どうかした?」

 浮かべた笑みが引きつる。その様子に、言葉の選択を間違えたかな、とアルバフィカは苦笑しながらも睨みあげてくるレンへと近づき、少しばかり椅子の角度を変えて彼女を抱き上げる。空いた椅子には自身が座り、抱き上げたレンは膝の上へと下ろした。レンはその動作の一切に抵抗せず、アルバフィカの膝の上に横座りになると彼の首筋にするりと両の腕を回し、絹糸のような髪に頬を埋める。

「馬鹿が多くて困る」
「馬鹿……ああ」

 デスクの上にある書類に、今月で何件目かな、と先ほどレンがうめくようにして口にした言葉と同じ事を思う。

「ヘルとバルに任せるつもりだが」
「そう……ヘルがやり過ぎないか、少し心配だね」
「そこはバルに期待する。あいつなら上手く手綱取れるだろ」

 そう言いながらもアルバフィカの頭を抱え込んでごろごろと、まるで猫のようになついてくるレンに、自分でやったこととはいえ柔らかな肢体を寄せてくる恋人にアルバフィカは少しばかりドギマギする。レンは恋人の同様具合が手に取るように解っており、声を押し殺しながら笑った。それでも、震える肩にアルバフィカはレンが笑っているのを感じ取り、小さく唸りながらも顔を真っ赤に染める。

「笑わないでよ」
「くくっ……いやぁ、可愛いなフィー」
「嬉しくない」
「そんなお前が好きなんだけど」

 語尾を上げ、浅葱色の髪を掻き揚げて米神に口付けるレンに、アルバフィカはもう返す言葉が出てこなかった。一言で言ってしまえば、惚れてしまったほうの負けだ。

「……レンは相変わらずカッコイイね」
「そんな私が好きなんだろ?」

 負け惜しみのようにつぶやいた言葉も、レンの一言の前にはやはり弱いものでしかない。

「うん、愛してる」

 アルバフィカが観念したようにため息をつき、レンの体をしっかりと抱きこんで首筋に顔を埋めて、擦り寄るように首肯すると、レンはくすぐったそうに少しばかり身をよじり、肩を抱き頭を抱え込んで、珍しくも花がほころぶような笑みを浮かべた。


 久しぶりにインフィニ主を書きたくなったので書いてみた。しかもラブラブなの。
 こんな風な関係になるには時間がかかるので短編的な感じです。

 ちなみに、レンが執務をしているのは教皇が長期の出張中だから。んでもって、ラブついてる二人の格好は法衣です。お仕事中だから。色はレンが黒でフィーが白かな。レンが着てる方は襟ぐりが広めで、アルバフィカが首元まできっちりだと萌えます。主に私が。
 で、この二人かなり至近距離ですが、肉体関係はありません。ええ、ありません。原因はアルバフィカの自身の血への恐怖ですね。フィーはそれでちょっと悩んでます。それをフーガとか周りの人間がもどかしく思ってたり。レンはというと、「体の関係が有ろうと無かろうとどっちでも良いんじゃね? 好きあってんのは確かなんだし」と彼らの悩みも何のその。体の関係が全てじゃないですしね。
 本当に書きたいのはその先なんですけど、他の聖闘士との出会いとか女神との出会いとか生活とか、その後のキャラたちの人格形成に影響するもろもろを飛ばすわけにも行かずじりじり進んでいるわけでして。今はその進みも停滞してますけど。本当に気長に待っていただけると嬉しいですー・・・・・・。

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