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 何だ、このアホみたいにピーキーな騎体は。
 ファティマと言うには多少憚られる精神を持ったファティマ――兵助をファティマシェルに押し込み、騎体を起動させてその造りや反応スピードやら気になるところをざっと見た結果、呆れと共に浮んできたのはそんな感想だった。三郎と共に駆っていた“白雪”も他のMHと比べるとはるかに性能がよく、生半可な騎士ではすぐに転倒するか暴走させて潰してしまうだろう繊細な騎体ではあったが、泰晴が受け取らざるを得なくなった“艶夜”ほどではなかった。
 これは本当に泰晴か、かなりの実力者――それこそ剣聖と呼ばれるレベルの騎士ではければ乗りこなせはしまい。ファティマとて、エトラムルでは騎体の性能に振り回される。銘入りの、本当に最高級品でなければ騎体の制御など不可能だろう。
 頭が痛い、と泰晴はこめかみを揉んだ。本当にコレでは受け取らざるを得ない。こんな危険な騎体を野放しにしておくには、泰晴の良心が邪魔をしたし、何より大切に思っている友人が泰晴の為だけに、才能の全てをつぎ込んで作り上げただろう騎体を受け取らないわけにはいかなかった。
 深々と溜息をつく。

『どうかなさいましたか、マスター』

 その溜息を聞きつけたのか上から降ってくる声に、泰晴はぴくりと眉を震わせた。十年、三郎と共にMHを駆っていた間に少しはマシになったが、元々はエトラムルでMHを駆っていた泰晴は、騎乗している間に自分や部隊の人間やその所有ファティマ以外の声が聞こえるという状況に慣れてはいない。けれども、今まで聞いてきたファティマの声よりも若干感情の滲んだ声はさほど不快ではなかった。

「お前、こいつ動かせるか?」

 この、馬鹿みたいに制御の難しい騎体を。
 シートにもたれ、コクピットの内側を軽く指先で弾いて上を見上げる。
 鈴を転がすような、というよりも乙女型にしては落ち着き払った低めの声が、柔らかく泰晴の懸念を否定した。

『問題ありません。三郎と“白雪”ほどではありませんが、この子と私は対の存在――マスターの為だけにあるもの。どんなMHよりも、マスターの望み通りに動く事が出来ると自負しております』

 芯の通った声が高らかに宣言する。その声に同意するかのように、コクピット内のコンソールがカタカタと揺れた。そのどちらもが、どこか誇らしそうな雰囲気を纏っている。確かに、この騎体ならば泰晴の動きについてくる事が出来るだろう。この、超帝國の騎士の血を混じりけなく受け継ぐ騎士の動きに。他のどんなMHにもファティマにも――あの前代未聞のシンクロナイズドフラッターシステムを積んだ三郎と“白雪”が勘定に入っていないのは仮制御下故当然である――なしえなかったことができるに違いない。それだけぶっ飛んでいるのだ、この騎体も、泰晴の能力も。
 つくづく、騎士と言うものは血の濃さがものをいう。騎士と名乗り、強くある為にはかけがえのないものであり、世界にとっては前世紀の遺物。戦う事だけに特化し、種の保存すらも半ば放棄している劣性遺伝子の塊。人として騎士を名乗るものとは少しばかり異なる種。それが泰晴と言う存在だった。その血を、強さを疎んだ事はない。むしろ淡々と受け入れ、そういうものだと納得している。全力を出せず鈍重な動きしか出来ないMHや、泰晴の指示や動きについて来れないファティマやエトラムルにストレスを感じる事はあっても。

「ならいい。調整が終わり次第、カステポーで実戦だ」

 ついでにオニキスにも顔を見せておくか、とまだ受精卵であった時代の保護者であったブラック・ドラゴンを脳裏に浮かべ、ちらりと思った。釣り合ったファティマとMHを持たぬ事を嘆き、心配させっぱなしのドラゴンに多少の孝行はすべきだろう。完全に、上にいるファティマを受け入れたわけではないが。

「ドーリーの用意も出来てるんだろう?」
『はい。“白雪”同様、専用のドーリーがございます』
「……それも新作か」
『はい。地上走行型のモータードーリーです。基本的な構造は“白雪”と変わりませんが、マスターがより快適に過ごせるよう、現時点で可能な改善は全て施してあります』

 一体どれだけ金をつぎ込んで造ったんだ。新品のファティマ一体を得るだけで、払わねばならない金額は50億ほど。兵助や三郎のような超弩級のファティマだと、1000億は軽く行く。そこに同じく新品のMHにドーリーとくれば、どれだけの金が飛んでいく事やら。色んな騎士団に引っ張りだこで、雇われれば新しいファティマを得られるくらいの報酬は簡単に得られる上に、その金額もほとんど使わず、戦場に出てもMHにほとんど傷をつけずに戦闘を終わらせるために修理代を出す事もない。その上、特殊な身の上の為に外見年齢の倍以上は生きている泰晴である。どこかの国家予算程度の金額は有り余っているので支払いに困るような事はないが、それを見越して金に糸目をつけなかっただろう二人がどれだけ好き勝手したのかは気になった。

「水と食料は?」
『マスターがこの工房に到着する前日に、肉、野菜、果物、調味料や香草を各種フリーザーに詰め込めるだけ用意してあります。非常食やレーション、パンも同様に。水は“白雪”に積んでいた倍の量を貯蔵しています』
「倍……?」
『マスターが湯船に浸かりたいと仰っていたと聞いた食満博士が、喜々としてドーリーに浴槽を積んでいたのでその為かと』
「なるほど」

 本当に泰晴が快適に過ごせるように改良してしまっているらしい。“白雪”ですら、今まで過ごしてきたドーリーよりも過ごしやすく、ドーリーであることすら疑ってしまうほどだったと言うのに、これではMH運搬用の車両というよりも、MHも積む事ができる移動家屋だ。いくら居住施設も備える長期滞在が可能なものだとはいえ、これはないのではないだろうか。ありがたく受け取らせてもらうが。

「なら騎体が十全なら出発は明日。微調整は移動と同時進行だ」
『Yes,Master』

 応える声に喜色が滲んでいる。何がそんなに嬉しいのか理解できないが、それで何か不都合があるわけでもないので疑問を抱く前にその思考を放り出し、コクピットのハッチを開く為にコンソールへと手を伸ばした。




 前の話の続きです。こっちの艶主と兵助が仲良くなるにはちょっと時間がかかるので、出会った頃はこんな感じ。なんせ艶主はファティマが嫌い。彼女たちに認められ、高性能のファティマを持つことが騎士としてのステータスですが、艶主はそんな事全く気にしていません。原作にもファティマが嫌いで騎士になれないって人がいます。
 それでも艶主が騎士なのは、その能力が超弩級だから。引っ張りだこなんですよ、本当に。ファティマさえもてれば剣聖と呼ばれても文句が出ないくらい強いのです。だから超絶お金持ち。兆単位のお支払いすら困らないそうです。本当に何処の国の国家予算くらい抱え込んでるんでしょう、彼。設定して無いので秋月にもわかりませんが。
 ちなみに、文中にある価格設定はほぼ原作に基づいて表記。もう高いとかそんなもんじゃないですよね。だから国に属する騎士はファティマを得ると、彼女たちを国の所属として国が獲得料金を支払うそうです。個人で払わなくていいのは、ファティマはMHを動かす為のパーツで戦争の為の兵器だから。どれだけ綺麗な容姿をしていて心優しくても、ファティマの存在はそんなです。

 ちなみに前回の話で兵助のクリアランスがVVS1とあるのは、フローレスの評価が後付けだからです。泰晴が剣聖になって、剣聖のファティマとして、その優秀さを認められて、三郎と同時期にフローレスと呼ばれるようになる設定。

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