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 森の奥まった場所には、龍神の住む滝が存在する。
 大川平次渦正は、学園を創設する為に闘茶で手に入れた山々の中に、そんな言い伝えが存在する事を知り、これは一度尋ねていかねばとその瞬間に心に決めた。彼は昔、一匹の妖狐を助け、恩を返してもらったときに、妖や八百万の神が確かに存在する事を教えてもらっていたのだ。しかも、神の機嫌を損ねると妖よりも性質が悪い。
 姿を現してくれずとも、挨拶をし、その神が存在する土地に忍術学園を創設する事を報告しなければならないだろう。
 そう思い、大川は噂の滝へと足を運んだ。

「……っ!」

 思わず息を呑んだ。瑞々しく生い茂る木々、芳しい香を放つ色鮮やかな花、それらが映る水は滝壺の底まではっきりと見えるほどに美しく澄んでおり、空を滑り落ちてくる滝は轟々と音を立てて滝つぼに落ち、まるで真珠のように美しい泡を生んでいる。そこかしこに転がっている岩すらもまるで計算されているかのような美しさを持っており、真実、神が住まうに相応しい荘厳な空気が、その場には満ちていた。
 神社にも似通ったその雰囲気に、まさしく神がおられるのだと、大川は納得する。そうして、彼は滝つぼの前まで歩を進めると、すっと膝を突いた。

「この地を治めし龍神よ、お初にお目にかかります。我が名は大川平次渦正、この山から先、いくつかの山を今現在所有する権限を持つ者にございます。此度は忍術学園を創設するに当たり、挨拶に参りました。この地で子供達を忍として育み、乱世に送り出すための箱庭を作る事をお許しいただきたい」

 頭を下げる。
 滝が滝壺を打つ音にじっと耳を傾け、大川はしばらくの間そのままの体勢でいた。返事が返ってくるとは思わなかったが、それは語りかけている神への礼儀でありけじめだ。そして、頭を上げ立ち上がろうとした瞬間に、ゆらりと、空気を揺らすように笑い声が聞こえてきた。
 木々の葉がこすれるような、風が岩の隙間を通り抜けるような、そんな音ではあったが、確かにそれは喜色を含んでいる笑い声に聞こえる。それだけで一気に場を神聖と一言で表すには足りぬほど清らかで厳かな空気が場を支配し、大川は動きを止め、再び深く頭を下げた。

『神に頭を下げ許可を求めるか、今時の人間にしては感心な事よ』

 頭の中に直接響いてくるような声に、大川は額を土につけた。

『よい、その忍術学園とやらを我が治める地に建てる事を許可してやろう』
「は、ありがたき幸せ」
『だが、我は関与せぬ。よいな』
「ははっ」

 どこか冷たくも聞こえる声が、耳を撫でる。
 そうして、場を支配していた空気が完全に引くと、大川は全身から噴出している汗に身を震わせ、大きく息を吐いた。よもや本当に神が現れるとは思わなかった。声だけであっても、何という存在感。響いてきた声だけで、人間とはこれほどにちっぽけのものだったのかと思わずにはいられないほどであった。





「ふふふ」

 上座に座し、庭を見つめていた水和が上げた笑い声に、茶を立てていた大川は茶せんを置くと茶碗を水和へと差し出し、首を傾げた。

「いかがなさいましたかな、水和様」
「お主が初めて我の住処に訪ねてきたときの事を思い出しておった」
「おお、あの時の……」
「今の世は八百万の神よりも外来の神を崇めるものも多い。大真面目に名乗り頭を下げる人間など久しく、傍から見ていれば少し滑稽でもあったぞ」
「あの時の笑い声はその為でありましたか」

 当時の事を思い出し、大川は苦笑する。大川にとってそれは数十年も前の話しで大分と記憶はおぼろげではあったが、あの時の衝撃は今でもしっかりと覚えていた。だが、神である水和にはまるで昨日の事のように思えるのだろう、まるでそれだけで至上の音楽でもあるかのような笑い声を再び上げて、大川の立てた茶へと手を伸ばした。

「ふむ、良い葉を使っているな」
「土も水も日の光も、どれも素晴らしいと聞いた所の茶を取り寄せました」
「それだけではなく、土地神の力も安定しておるようだ」
「それは素晴らしい」

 神に守護され、その力が行き届いた土地がどれほど豊かで素晴らしいか、その身をもってよく知っている大川は顔をほころばせ、自分の為に立てた茶を口に含んだ。茶の豊かな香が、口に含んだ瞬間に広がり、確かにいい茶である事を知る。
 ことりと、水和の白く長い指が茶器を下ろす。さらりと衣擦れの音をさせ、立ち上がった。

「水和様、いずこへ?」
「そろそろ神子の授業が終る頃であろう」
「そうですか」

 至極幸せそうな顔をする神に、大川はほっこりとした笑みを見せ、いってらっしゃいませと頭を下げた。初めてその声を聞き、頭を下げた時とは全く違う気持ちを抱いて。


 



 水和様が学園の守護に着くのは、学園長が学園を創設して少し経った後です。兵助の前の神子(not 伴侶)が入学してきて、森で迷子になって水和様がお住まいになる滝に現れてぼろぼろと泣いてるのを発見してから。
 ちなみに話の中で水和様が言ってる神子は兵助です。


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